For RENTAL Only



翌日、ルルーシュの組んだ掛け持ちデートプランをなんとかこなしたジェレミアは、疲れきった表情でルルーシュの私室に顔を出した。
時刻は午後9時きっかり。本日最後のデートは一時間前に終わっている。
今日一日だけで5人の女性にレンタルされたジェレミアの、相手に対する気遣いは半端なものではなかった。
普段から女性に対する気遣いは忘れないジェレミアなのだが、ルルーシュに「くれぐれも粗相のないように」と言われた所為と、監視されているような状況の所為で余計に気を遣ってしまったようだ。
因みに、一日と言っても、午前11時から午後8時までがジェレミアのレンタル時間である。
その間に5人を掛け持ちしたのだから、1人の持ち時間は精々一時間から二時間程度でしかない。

「只今戻りました」
「ご苦労だったな。モニターでお前の仕事ぶりを見させてもらったが、なかなかのようではないか」
「・・・はぁ」
「今日お前をレンタルしたご令嬢方から、先程お礼のメールが届けられていたぞ?」

ゲンナリとしているジェレミアを余所に、ルルーシュは上機嫌である。

「あの・・・ルルーシュ様?」
「なんだ?」
「・・・この任務をお断りさせていただくことは、できませんか?」
「なにを言っている!今日は初日だからウォーミングアップのつもりで女性ばかりを選んでシフトしたのだぞ。まだまだこれからだと言うのに、1日目から音を上げる奴がいるか!」
「し、しかし・・・私には、やはり無理です・・・」

ルルーシュの前で、床に片膝を着いて形式どおりの臣下の礼を執っているジェレミアは、その凛々しい姿勢とは裏腹に、今にも泣き出しそうな情けない顔をルルーシュに向けていた。
零れそうになる溜息を堪えて、ルルーシュは部屋の中で控えている警護の兵士を目顔で下がらせる。
ジェレミアの沽券と名誉を考えてのことと言うよりは、自分が弱いものイジメをしていると勘違いされ、悪い噂が立つのを厭ったためだ。
もっとも、それは今更で、日頃からルルーシュに無理難題を突きつけられているジェレミアに同情する声が城内においても最早少なくない。
ルルーシュと二人きりで残されたジェレミアは俯いてしまっている。
見ず知らずの人間にレンタルされることを、本気で嫌がっているようだった。
ジェレミアがやる気を出してくれなければ、今回の商売・・・基、計画は水の泡と消えてしまう。今後の資金活動にも支障が出るだろう。
すべてがジェレミアのやる気に懸かっているのだ。

「そんなに嫌か?」
「はい」
「では、お前が最後までやり遂げたなら褒美をやると言ったら・・・」
「わ、私はそんなものはいりません!」
「まぁ、そう慌てるな。最後まで話を聞け」
「は・・・も、申し訳ございません・・・しかし・・・」
「お前がもし、今回の任務を滞りなく遂行することができたら、俺がお前とデートしてやってもいいぞ?」
「・・・ほ、本当ですか!?」

それまで沈んでいたジェレミアの表情が、ルルーシュの「デート」一言でぱっと輝いたのは言うまでもない。

「嘘じゃない。褒美として、俺がお前とデートしてやると言っても、お前はこの任務を放棄するつもりか?」
「や、やります!全力でレンタル任務に当たらせていただきます!!」

ルルーシュとデートをするためなら、レンタルだろうがリースだろうが、俄然ジェレミアはやる気になったようだ。
正に「単純」の一言に尽きる男である。
「明日の為に今日はこれで失礼させていただきます」と、息巻くジェレミアを押し留め、「少し待っていろ」と言い残すと、ルルーシュは奥の部屋へと姿を消した。
それから間もなくして、ジェレミアの前に戻ってきたルルーシュの手にはリボンのかかった箱が乗せられていた。
掌サイズのそれをジェレミアの前に差し出して、ルルーシュはにっこりと微笑んでいる。

「こ・・・これは?」
「ホワイトデー。・・・バレンタインにお前からチョコをもらったお返しだ。中身は俺が作ったミニガトーショコラだが、もらってくれるか?」
「私がもらっても・・・よろしいのですか?」
「お前の為に作ったのだからな・・・ありがとうショコラだ」
「・・・あ、ありがとうございます!一生大切にいたします!!」
「いや・・・ジェレミア、その気持ちは嬉しいが、ナマモノだから早めに食べた方がいいぞ・・・」

ルルーシュの駄洒落たお返しに、涙を流して本気で喜んでいるジェレミアは今にも踊りだしそうな勢いだ。
しかし、実はそのお返しが、ジェレミアに送られてきたチョコと厨房にあった残り物のダークラムからできていることは教えないでおこうと、ルルーシュは心の中でひっそりと誓った。
もっとも、それを教えたところで、ルルーシュから手作りのお菓子をもらったことは確かな事実で、ジェレミアの感動が薄れるわけではないのだが・・・。